偉人! 小椋佳さんに取材した、新人フリーライターの身も凍る体験談

こんにちは。医療ライターの横井です。

 

フリーランスになってまだ間もない頃、歌手の小椋佳さんに取材させていただく機会がありました。

小椋佳さんが70歳の節目に行った「生前葬コンサート」にからんで、ご自身の終活について聞く、という内容のインタビューでした。

 

 

小椋佳さんといえば、美空ひばりさんの「愛燦燦」や布施明さんの「シクラメンのかほり」などのヒット曲を持つ、超一流のシンガーソングライター。

おまけに、東大法学部卒業後に日本勧業銀行(現・みずほ銀行)へ入社し、銀行マンとして働きながら音楽活動を行ってきた、偉人中の偉人です。

 

もう、世界が違い過ぎるというか……とてもフリー1年目のライターなどが対等にインタビューできる相手ではありません。

私は、限られた時間の中でミスなく取材するため、徹底的に、関連資料を読み込み、BGMには繰り返し「愛燦燦」や「俺たちの旅」などの楽曲を流し、準備を進めました。

 

そんなふうに万全の体制でのぞんだ取材だったのですが……

結果は背筋も凍るインタビューになりました。

 

当時のテープを聞き直すと、今でも冷や汗がにじみます。

以下、一部を抜粋します。

 

―― どのようなコンセプトで、1000曲以上の楽曲から100曲に絞られたのですか?

小椋さん 意図はないですね、結果論です。

 

――(生前葬コンサート)観客の反応はいかがでしたか

小椋さん 僕には、わからないですね。やっている方なので。

 

――70歳にして歌い続ける原動力は

小椋さん 特に、ないですね。

 

――今後のご活動についてのお考えは

小椋さん 言えないかな、有言不実行になるといけないから。

 

どの角度から質問を投げかけても、「ふふ」と控えめに笑ってから、ひと言、ふたこと、途切れがちな返事をくれるだけ。

あれも聞こう、これも聞こう、と準備していった質問が次々と不発に終わり、まさかの沈黙すら流れる始末……

取材が終わり、逃げ出すように編集者と近くのカフェに駆け込みました。

 

 

 

編集者「いやあ、辛かったね。アーティストだね。一筋縄じゃいかないよ」

私「取材も辛かったけど、あのインタビューじゃ、書くのはもっと辛いことになります(涙)。なにも、なにも書けません。6ページもあるのにいったいどうしたらいいんでしょうーーー‼(大泣)」

ほとんど絶叫していた私に、編集さんが言ってくれたのは、

 

「横井さんね。僕らがあの場所で小椋さんと話して感じた、あの場の空気、音、気配、すべてが情報なんだよ。あの場で、居場所のない思いをしたこと、それ自体が貴重な情報だから、それを読者に伝えればいいんだよ」

 

衝撃でした。

新聞記者出身で、紙面に書くのは100%客観的事実のみ。一部のコラムを除き、記者の視点を入れることもよしとはされない中で育ってきた私にとっては、

「その場の空気も情報」などと、発想もありませんでした。

 

結果、編集さんから目からウロコのアドバイスをもらい、なんとか無事に6ページを書き上げることができたのでした。

 

あれから5年。

「その場の空気も貴重な情報」

あの時のアドバイス、役に立ってます。

ありがとう、編集者のAさん!!

 

記者として培った、100%客観的事実にもとづくライティング。

そして、フリーランスになってから経験した、その場の空気さえ文章に仕立て上げる、柔軟な対応力。

すべてが今の私にとっては貴重なスキルになっています。

 

文章の力でお役に立てることがあれば、ぜひお気軽にご相談下さいね。

 

読んでいただき、ありがとうございました。