元気な高齢者、飲んでいる薬の種類は何種類?
こんにちは。医療ライターの横井です。
ある老健の取材で、高齢者の薬の数が多いことについて、
看護部長さんとこんな会話のやりとりがありました。
私「やっぱり、少ない方が副作用も少なくて、飲む方も飲ませる方も負担が少ないですよね」
看護部長「そりゃあ、服薬数が少ない方の方が圧倒的に、元気ですよ。やっぱり5剤以下の方が、いちばんお元気ですね!」
ここで思わず、ぎょっとしてしまいました。
看護部長が「5剤以下」を「少ない」と表現したからです。
ご、5種類で少ない方に入るの!?
高齢者の多剤併用(いくつもの薬を同時に処方されていること)に関するリスクは、
ずいぶん前から問題視されていますが、なかなか改善するための有効な手立ては見つかりません。
元気になるために飲んでいる薬のせいで、かえって元気を無くしてしまう――こんな悲劇はないのではないでしょうか。
高齢者の薬が多いことについては、いくつかの理由がありますが、私は患者側にも原因の一端はある気がしてなりません。
なぜかというと、患者の多くは「病名」と「薬」が欲しくて病院へ行っているから。
ずいぶん乱暴な言い方に聞こえるかもしれませんが、どこか具合が悪いところがあって病院へ行った時、
医者が「年だから仕方ないですよ」といってなにもしなければ、きっと患者は腹を立てるでしょう。
患者さんに納得してもらうためには、医者はなんらかの病名をつけて、
薬を出さざるを得ないという現状もあるように思えてなりません。
そして、原則として「医療へのフリーアクセス」(誰が、どこの病院にも自由にかかることができる)が保障されている日本では、
患者さんが複数の病院を受診して、それぞれから薬をもらっていることはよくあります。
高血圧や糖尿病など内科の持病に加え、整形外科、泌尿器科、眼科、精神科……と、
病気ごとに受診する病院を変えて、それぞれから薬を出してもらっていれば、薬の数は雪だるま式に増える一方、ということもありえるでしょう。
事実、75歳以上の高齢者が1か月に同じ薬局でもらう薬の数は、6種類以上が27%と4分の1以上を占めています。
また、10種類以上も薬をもらっている人が7.2%いることもわかっています。
(厚生労働省平成30年社会医療診療行為別統計の概況)
このデータを見ると、冒頭の看護部長さんが5剤を「少ない」と表現したことも、なんだかうなづける気がします。
医療にはたくさんのパラドックスがあると思いますが、
健康を望んで飲んでいる薬が、かえって不健康を招いてしまう――このパラドックスは、
一刻も早く解消されることを願うばかりです。
読んでいただき、ありがとうございました!